新型コロナウイルス感染症に関する情報
新型コロナウイルス感染に関するメンタルヘルスの情報
~ 看護職に起こりやすいストレス反応や対応 Ver.1 ~
新型コロナウイルス感染症の拡大が大きな社会的問題となる中、その予防や陽性患者への看護など、看護職はさまざまな場面でこの感染症に向き合っています。私たち、精神看護専門看護師は、感染によって療養生活を送られている患者の精神的ケアや、患者を支える看護職のメンタルヘルスに対する支援などに取り組んでいます。
これらの取り組みから見えてきた課題もたくさんありますが、ここでは、主に看護職のメンタルヘルスに対する支援に関する情報提供を行います。
感染による状況・影響は日々変化しています。陽性患者をこれから受け入れる医療機関と、すでに陽性患者を受け入れ混乱のさなかにある医療機関とでは、看護職が置かれている環境や看護職に求められる役割は異なります。そういった違いを踏まえ、メンタルヘルスに対する支援を考えていくことが重要です。
なお、ここに挙げる情報は、今後の状況に合わせて、適宜アップデートしていく予定です。お気づきのことなどがあれば、下記までご連絡ください。
- 新型コロナウイルス感染症への差別や偏見
- 新型コロナウイルス感染症患者の対応に関連したメンタルサポート
- 新型コロナウイルス感染症への不安や危機管理意識に関する病棟スタッフと管理者のずれ
- 新型コロナウイルス感染症に対応する病院や病棟に勤務することに関連した不安、疲弊
- 妊娠しながら働くことへの不安
- 報道に関連した二次的ストレス
日本専門看護師協議会 精神看護分野
連絡先:
〔Ver.1掲載日:2020年5月11日〕
武用 百子(和歌山県立医科大学) 寺岡 征太郎(和洋女子大学)
菊池 美智子(もりやま総合心療病院) 曽根原 純子(日本赤十字社医療センター)
岩切 真砂子(慈圭病院) 蒲池 あずさ(東京臨海病院)
河野 伸子(横須賀共済病院) その他有志
1.新型コロナウイルス感染症への差別や偏見
- 新型コロナウイルス陽性者や疑い患者に対応する病棟(以下、‘陽性者対応病棟’とする)のスタッフやその家族が、こころない言葉をかけられる。
- 陽性者対応病棟を、「コロナ病棟」と呼称されること自体に違和感を覚える。
- 「コロナ病棟には入らない方が良いと言われている」「コロナ病棟の電球は変えられない」「保育園で子どもを預かってもらえない」など。
- 組織内で生じている差別・偏見
なるべく組織の上層部から、このようなことがないように、全体にメッセージを送ってもらうように働きかけます。 - 医療従事者ではない人からの差別・偏見
医療者以上に未知なる感染症に敏感になっている可能性があります。その場合は、感染予防に関する正しい情報や、安全な方法を正確に伝えます。 - 組織外(保育園など)で生じている差別・偏見
- 保育園の管理者など関係者と具体的に何を恐れているのか、話し合う機会をもちます。お互いの不安や恐怖などを理解しあい、感染に関するリスクを最小限にする方法を検討します。
- 親が医療者であるがゆえに、保育園から子どもの受け入れを拒む内容の通達を受けた場合は、病院の事務等に報告し、然るべき立場から市区町村や設置主体者に申し入れを検討してもらいます。
- 子供が、学校などで差別やいじめにあうことへの不安を抱く人もいます。子供の社会でも差別や偏見が起こらないように、子供への説明や対応についても情報提供をすることが望まれます。
● 下記の資料は、新型コロナウイルスに関する正しい知識を得る際に有用です。
資料1)
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200326_006124.html
資料2)
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200330_006139.html
資料2)の「サポートガイド」には、それぞれの立場でできることが整理されています。これらを参考にしながら、今、自分にできることを考えてみることができます。
「語ること(ミーティング)」がストレスの低減に役立つことが明らかになっています。語るためには、その場が安全でなければなりませんが、ミーティングの目的を明確にし、資料1)2)を供覧しながら感想を述べあう、といった方法も有用かもしれません。下記はミーティングを開催する際の一例です。参考にしてください。
- 管理者(上司)とミーティングの日時を設定します。(一度ではなく、部署のスタッフができるだけ多く参加できるように、場合によっては複数回に分けて計画する)
- ミーティングの目的は、全員で確認します。例えば、「スタッフが日々抱えている不安や組織・部署への不満などを自由に発言する」などです。
- 管理者(上司)がいることでスタッフが自由に発言できない場合には、スタッフにとって比較的利害関係の少ない人(院内にいる臨床心理士などの人的資源、あるいは他部署の管理職など、ある程度上層部に近い人が望ましい)にミーティングに同席してもらうように調整します。
- 語られた内容から、組織として全体で対応できそうなこと、スタッフの不安について個別対応したほうが良いことなどについて、意見交換をします。
- その場に参加している人を責めたり、批判したりしないことが鉄則です。
資料3)
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200406_01.pdf
資料4)
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/wp-content/uploads/2020/03/COVID19_advice-for-parents-and-carers_20200327_Japanese_v5.pdf
2.新型コロナウイルス感染症患者の対応に関連したメンタルサポート
- 感染者の受け入れが急に決まり、スタッフの動揺が強い。具体的なメンタルヘルスの取り組み例などを教えてほしい。
- 新型コロナウイルス感染症に関連した心理的ストレスを理解するために、さまざまな資料が各種団体より提供されています。いずれもインターネットで自由に閲覧・ダウンロードできますので、参考にしましょう。
- 日本赤十字社「新型のコロナウイルス感染症に対する職員のためのサポートガイド」では、第一、第二、第三の感染症について説明しています。それぞれのストレス反応についても説明されています。ストレス対処には、①職務遂行基盤(スキル、知識、安全)、②個人のセルフケア(いわゆるストレスマネジメント能力)、③家族や同僚からのサポート、④組織からのサポートが挙げられます。まず、ご自身で積極的に、②個人のセルフケアを大切にしてください。何が普段と違うのか、不調なところはどこかについて、積極的に身体や心の調子を知って対処してください。食事や睡眠、またご自身のために時間を使っているという感覚を持つなど、ご自身のセルフケアに十分に配慮してください。見通しが立たないことで不安が高まるかもしれません。その場合はマインドフルネスなどを実践することをお勧めします。そして③の家族や同僚からのサポートを積極的に得ましょう。周囲の人間からサポートを得られるかどうかで、困難な状況で働く職員のその後の精神的健康度は大きく変わってくるといわれています。職員を孤立させない配慮が必要です
資料5)
http://psy.umin.ac.jp/
資料6)
http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200330_006139.html
参考)看護職を対象とした新型コロナウイルス感染症に関するメール相談窓口(メンタルヘルス)
https://www.nurse.or.jp/question/31617e34d37169ae1545160889c34702/mail.cgi
3.新型コロナウイルス感染症への不安や危機管理意識に関する病棟スタッフと管理者のずれ
- 組織が定める感染予防対策のみでは安全だと思えず、納得できない
- 必要な感染予防対策はしているが、それでも安心できない
- 組織の中で、“濃厚接触者”や“標準防護具”の認識にずれがあり、安全だと思えない。
- 看護師として働くうえで、まずは自分の身の安全が守られていなければなりません。 身体的安全の確保のために、感染症対応に必要な基本的な知識や技術を身に着け、周囲の人たちと共有しながら、看護師としてできることを実施していくことが必要です。正しい知識、情報に基づいた予防策を、日々徹底するために、どのような対策を講じる必要があるのか、再確認してみましょう。
- 正しい知識や技術を身につけて実践したとしても、この状況に直面する不安が残るのは当然です。私たち看護師も生身の人間ですので、無理をせず、自分の中にある思いを誰かに話してみることが大切です。一人で思いを抱えるのではなく、だれかと思いをシェアしてみると楽になることもあります。まずは身近な人同士で支えあい、この危機的な状況に向かい合うことをお勧めします。
参考)看護職を対象とした新型コロナウイルス感染症に関するメール相談窓口(感染管理)
https://www.nurse.or.jp/question/c7aeb10b847659acb3b40334f11023b2/mail.cgi
- 管理者が医療従事者でなく、現場の危機意識と差があるように感じる。
- 今すぐに必要のないケアなのに、感染のリスクがある利用者宅への訪問を強要される。
- 感染リスクをできるだけ減らすために、優先順位の高い業務と低い業務の整理し、訪問するご利用者への頻度について検討します。
- 管理者が医療従事者ではない場合、感染予防の知識が不十分であり、意見の食い違いが起こる場合があります。そのため、個人の意見ではなく、訪問看護ステーションに求められている取り組み(推奨されていること)を客観的な資料をもとに、提案します。
資料7)
https://www.jvnf.or.jp/newinfo/2019/korona_taisaku20200306.pdf
資料7)では、(1)感染症発症時について、優先順位の高い業務と低い業務の整理をすること、(2)感染症が広まった際、訪問する利用者について、①従来通りの頻度で訪問するべき利用者、②訪問間隔を調整できる可能性のある利用者、③訪問を休止できる可能性のある利用者に区分し、速やかに対応することを推奨しています。
4.新型コロナウイルス感染症に対応する病院や病棟に勤務することに関連した不安、疲弊
- 新型コロナウイルス感染症の患者さんの看護をしているため、宿泊施設を準備してほしいと要求したが、その要求が通らず、組織的なサポートが不十分だと感じる。
- 勤務後、自宅に帰宅した場合、家族に感染させないかが不安。
- 毎日業務量が多く、大変疲弊している。
- 新型コロナウイルス感染症の患者さんのベッドサイドでケアするのは看護師だけで、医師や管理者が患者を避けている状況に対して不公平感や理不尽さを感じる。
- 感染リスクを低減する方法について、組織が十分な情報収集を行っていること、看護師個々も具体的な対応方法を身に着けていることが重要です。
- 組織的なサポートについては、施設によって差異がある状況ですが、困りごとや必要なサポートについては、上司にしっかり伝えていく必要があります。
- 宿泊施設の準備についても、対応はまちまちです。帰宅前に院内でシャワーを浴びる、帰宅したらすぐにお風呂に入る、などの他、着用した衣類は熱湯につけ、家族の衣類とは別に洗濯するといった方法も推奨されています。また、自宅玄関の前で靴底を洗ったり拭いたりしてから入るといった方法もあります。
- 感染するのではないかという不安は、感染症に対する正しい知識をもち、感染予防策を身に着けることで軽減されます。防護服の着脱訓練を行うなど、同僚とも確認しあうことが必要です。
- 具体的な不安や不満への対応方法には、組織での対応と個別の対応があります。管理者の方はスタッフの声をきいて、多くの人に共通する不安に対して具体的な組織的な取り組みについて考える必要があります。一方、不安や緊張が高まっている個人に対しては、思いを語れる場、真剣に受け止めてもらえる場を準備して、個別支援を検討します。心理士などの力を借りることも一案です。
資料8)
http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31
感染症は、感染症という疾病そのものだけでなく、不安という感染症、更には嫌悪や差別という感染を起こすということが指摘されています。不安の増大には、これらのことが関連している可能性があります。
5.妊娠しながら働くことへの不安
- 妊娠中で、病院で働くことに不安を感じる。
- 妊娠中の人への配慮はしてもらえないか。
- 率直に、妊娠しながら働くことへの不安を上司に伝えて、配置換えなどの対応を希望することも可能です。それが難しいようであれば、組合などからも働きかけてもらう方法もあります。
- 妊娠中の女性労働者が保健指導や医師・助産師の診察で新型コロナウイルス感染症に感染するおそれに関する心理的なストレスが母体や胎児の健康保持に影響があるため、これらに関する指導を受け、事業主に申し出た時には、作業の制限や出勤の制限等の措置を講じることが指針に加わりました。
● 妊娠に関連した情報としては以下のものがあります。
資料9)
https://www.mhlw.go.jp/content/000627985.pdf
資料10)
職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた妊娠中の女性労働者等への配慮について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10653.html
資料11)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10656.html
6.報道に関連した二次的ストレス
- 新型コロナウイルス感染症に関連した、報道関係者のインタビューの依頼がある。
- 感染者が発生したことを報道され、患者や家族からの苦情などの対応に困っている。
- マスコミ対応は、どのような立場にある人も戸惑い、消耗することになります。組織のトップが記者会見などをしない限り、情報提供をする必要はありません。「お答えできません」「お話する内容はございません」と、きっぱりと断り、個人情報の保護を遵守しましょう。
- またマスコミ対応に関して、組織で一貫した対応が必要になると考えますので、施設長などが認知できるように取材の依頼があった時には、所属長に伝えることをお勧めします。
- 報道に関しては、正しく事実を伝えてもらうことは大切ですが、特に組織の管理職の方は、働く職員一人ひとりの理解や受けとめ方には温度差があることを念頭に入れておく必要があります。
- 患者は当然のこと、医療者も取材を希望しない場合は、断る、または個人が特定されないよう映像・音声の処理がなされるのか確認をすることをお勧めします。
- 自分の職場で新型コロナウイルス陽性患者を受け入れていることを家族にも話せていない人や、報道によって差別や偏見が助長されることを不安に思っている人もいます。職員が知らないうちに広くマスコミで報道されることへの戸惑いも生じかねません。取材に応じる場合には、その目的や内容、報道日時、組織の実名が公表されるのか、等を事前に周知するなど、職員の不安や懸念への配慮が求められます。
- 院内感染が発生したことに関連して、患者や家族から病院に問い合わせが殺到することがあります。その際は、電話対応する者が統一した回答をできるよう速やかにマニュアルを作成するなどして対応することで混乱を防ぐことができます。さらに、対応するスタッフは、精神的に疲労することも多いため、1時間ごとにスタッフを変更するなど、適宜休憩をとりながら対応することをお勧めします。